☆「小さな政府」「官から民へ」公務の市場化は改憲の背景
自治体政策セミナー
受講した専科は、「指定管理者制度と市場化テスト」
会場は、みなとみらい線「馬車道駅」から徒歩で約3分にある万国橋会議センター内です。
講師は、自治体アウトソーシング研究会を担当されている城塚健之弁護士。
公務の市場化のねらいと問題点、背景にある財界と政府による改憲のねらいとの関係がよくわかるお話でした。
簡単に報告します。

財界にとって、行政が担ってきた「パブリックビジネス」は、先行投資の要らない安全で魅力的な投資分野。ビッグビジネスチャンスとばかりに、財界系シンクタンクがバックアップしています。一方住民の側からみれば、税金が投入された公の財産が特定企業の設けの道具となることになります。

 この間実際に起こっている問題のひとつには、耐震構造偽装事件があります。
 川崎市の「グランドステージ川崎大師」の強度不足が発覚した事件で、民間確認検査機関の「イーホームズ」(東京都新宿区)が建築確認を出しましたが、川崎市に提出された報告書はA4判1枚で建築主らの名前や建築面 積、建物の配置図など最低限の情報のみ。( どこでも同じだと思います。) 市の担当者は「チェックしようがない」と嘆いたということです。

 仙台のスポパーク松森の天井落下事故をみると、この施設は仙台初のPFI(Private Finance Initiative)方式(民間の資金やノウハウによって、公共施設を建設しそこで必要な調達を行うという方法)で建設し、営業をはじめた矢先の事故となっています。さらに問題は、仙台市のホームページに負傷者31名となっていましたが実際は35名。負傷者の把握に時間がかかりしかも正確でないという事態が、民間に管理運営を委ねることでいかに行政の責任があいまいとなるかがわかる中身です。事故の原因はわかっても、施工業者は市と直接の契約関係がなく責任を追及することが難しいなど問題が複雑になることを感じました。

 これに関連し、全労働省労働組合の河村直樹さんが、「この事故でお客さんを誘導したインストラクターたちは個人契約の派遣社員で、業務中の負傷であるにもかかわらず労災さえ適応されていない」と指摘。

 住民サービスの低下を招く事例では、兵庫県内初の企業経営認可保育園となった神戸市の「すくすく保育園」を運営する会社が乱脈経営で破綻した問題などいくつもの報告がありました。入園時や待機児童に対する自治体の責任が問われています。
  
 これら公務の市場化は、公務員バッシングと相まって推し進められています。国民的には「格差社会」に対する一定の抵抗感は広まりつつありますが、「構造改革」をすすめることが「格差社会」の拡大につながるという理解や、公務の市場化が財界主導による構造改革であることを認識するにはていねいな説明が必要なのだと思います。

 このことについて城塚健之講師は、自民党の新憲法草案を解説し指摘しました。ナショナルミニマムは必要ない、基本は自己責任論、地方のことは地方でやるべしという考え方。

 企業の租税負担を軽減し、公務の市場化をすすめることによって「小さな政府」をつくる。こうした流れがあることを大きな視野でとらえ、その弊害を徹底的に明らかにしていくことが大事であると結ばれました。

☆ 市場化テストとは‥。
市場化テスト(官民競争入札)はイギリス・サツチャー時代の「強制競争入札」が源流となっているものです。民間の提案を受けた公共サービスを対象に、内閣主導による手続きで官民が対等に競争入札を行うものとなっていて、地方自治法上の制度である「指定管理者制度」を超えて、国の公共施設の管理まで民間企業の参入を許すものです。

財界のねらいは、指定管理者制度には公物管理法や個別法の規制が参入の障害となっているため、これを突破したい。また、想定される住民の反対や雇用問題によって市場化がすすまない場合の「お墨つき」が欲しいというところにあると考えます。

 「市場化テスト」のモデル事業(2005年度)
ハローワーク:就職支援施設
  (生涯職業能力開発センター、キャリア交流プラザ)、求人開拓、
社会保険庁:国民年金保険料徴収、
行刑施設(福島、宮城刑務所):総務、警備、医療処置

 全労働省労働組合の河村直樹氏より、国の諮問機関、規制改革・民間開放推進会議「第2次答申」の問題点について報告がありました。
 まずは、先進諸国の事例に対する事実誤認があるいうことです。「第2次答申」では市場化テストが多くの先進諸国で既に実施されているところであり‥と日本での本格的導入を求めていますが、アメリカでの実態は必ずしも効率的でなく、オーストラリアの職業紹介事業は、政府が民間サービスを購入していますが、サービスの対象が失業補償受給者に限定されるなど、条約違反と指摘されています。

 次に、この推進会議には公正・中立性がないということです。会議の構成員は企業経営者と規制緩和論者のみで、労働者代表者が位 置付けられていないのです。
 また、ハローワークの現状に関する数々の事実誤認のなかで、ハローワークの非効率性をあげながら、根拠となるデーターは一切示されておらず意図的な攻撃であること。逆に、労働基準監督署と連携をとり業務をおこなってきたハローワークが、企業を顧客とみなす民間手法に立場を変えれば、求職者から労基法違反に抵触する指摘があったときに、公平な立場を貫くことができないのではないか。

いま最も成長を遂げている人材ビジネスの実態は、労働者派遣や業務請負で、こうした企業にとっての都合を優先させる働かせ方が、国民の生活基盤を壊し、製造現場での品質悪化や事故発生の原因となっていて見直しが求められているのです。公共性の担保はますます重要です。若者の将来がかかってきます。

「第2次答申」には少子化への対応として、多様な働き方を選択できるように労働時間規制の適用除外制度の整備拡充が必要だ‥などと述べています。アメリカにおけるホワイトカラー・エグゼンプション制度も引き合いにだし、使用者の労働時間管理責任を免責し、不払い残業を「合法化」しようというねらいです。しかも深夜業務規制の適用除外がどうして「少子化対策」となり得るのでしょうか。まったく理解に苦しみます。

 日本の製造業が危機的状況であると認識されているいま、技術の継承には正規雇用が不可欠です。
 技術の伝承にはひととひととのかかわりを保障する雇用の形態が必要です。

 わたしは、医療従事者でしたが、やはりたくさんのひととのかかわりのなかで技術を身につけてきました。ひととのかかわりが深いほど、その技術の精度が高まり、つぎへの伝承へとつなげることができたと思います。
技術は単に技術にあらず、こころをもった技なのです。「働くことは学びの蓄積であり、だから楽しい」労働者を儲けの使い捨て道具としか考えないような労働行政は国をも滅ぼします。